残雪夜録
雪は積もらなかった
降ったのがそもそもまちがいだったのかもしれないといえるような気候だった
日陰に隠れているうちに、わずかばかりの塊もみるみる消え去り
日が落ちても、気温は下がらず――
……
とうとう朝が来たのかと覚悟したが
これが夜か
まだ太陽は眠っている
最初で最後の機会だった
いろいろなものを見てまわろう
未来の不確実さを思――
なんかデジャヴを感じた
……
上出来だ
太陽に睨まれていたら、こうはいかない
吸血鬼の気分というか
眠る時間も惜しいというかのように――
一人ひとりが、夜に月を必要としているということで――
その、一人ひとりの月が、たったひとつの、ほんとうの月を阻害しているわけだ
そのおかげで、いろいろ見ることができたとはいえ
……でも
「いろいろ見ることができた」というのも、ただの自己満足にすぎないのでは……?
もし、月明かりだけだったら、こうして歩きまわることにしただろうか
月明かりだけが照らすものを見て、いったいなにを感じることができただろうか
……
はしゃぎすぎたようだ
ずいぶんやせた
「どこかで会ったかな」
「さあ。そうかもね」
「じゃあ」
「これから、どこに行こうか?」
Quote 「ひとり/ただくずれさるのを/まつだけ」
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