罪と罰
中学のクラスメートだった彼の両親は食堂を営んでいた。
僕はその店を知らなかったが、クラスメートたちはその「○×亭」という名前で彼を呼び、さすがにそう呼びかけはしなかったものの、教師のなかには、彼の店の話題をするものもいた。
じき、他の多くのクラスメートも、そして僕もまた同じように彼を「○×亭」と呼ぶようになった。
2ヵ月ほど経って、僕はいつものように彼に呼びかけた。
「やあ、○×亭」
彼は、しばらく返事をしなかった。怪訝がる僕に向かって言った。
「あのさ、そうやって○×亭って呼ぶの、やめてくんないか?」
「え?」
「俺が○×亭じゃないんだよ。店をやっているのは親で、俺じゃない。そういうふうに呼ばれるのは嫌なんだ」
まっすぐに見つめる彼の口調は静かで、それでかえって真剣さが強められていた。
僕は目を逸らした。
「それは」まったく考えもしなかった。「……ごめん」
以降、僕は彼を名字で呼ぶようになった。他の連中がどうしたのかはわからないが、少なくとも僕の目の前で、彼をそうは呼ばせなかった。
中学を出てからは別の進路を選んだので、その後しばらく彼と会うことはなかったのだが、ある日、町中でたまたま彼と会うことがあった。そこは彼の「両親の」店のそばだった。
調理師の資格を取り、親の跡を継ぐことにしたと彼は言った。
「親父も年取ったしな、手伝ってやらないと」
僕は冗談めかして当たり障りのないことを言い、しかし心のなかで彼の言葉を祝福した。彼の人格についてまるで考えなかった自分のことを恥ずかしく思った。
そして羨ましくも思った。親との折り合いをつけることができないままだった僕には、彼の姿はちょっとした罰だった。