そこにいるか

個人的な体験、その他の雑感

ま た か

朝日新聞に「特派員メモ」というミニコラムがあって、海外に赴任している記者がショートエッセイを書いている。カルチャーギャップによる失敗談や、ときにはしんみりする話題などもあって、なかなか面白い。

今日付では、「親の仕事のためにブラジルで生まれた記者がブラジルに行ったらブラジル人あつかいされて、義務の選挙登録をしていなかったため罰金を取られた」という話。役所の担当者のセリフがすごい。ずっと日本に住んでいたから、そんな義務のことは知らないと抗議する記者に「この前に来た先住民と同じことを言う」「彼も『ジャングルで暮らしていたから、選挙登録なんて知らなかった』と言い張ったけど、義務は義務だよ」*1。ブラジルの先住民もけっこういろいろ大変らしいし笑っちゃいけないのだけれどもやっぱり笑っちゃう*2

記者はもちろん日本人だろう(おそらく先祖代々の日本人。いちいち断わりをいれないといけないのは面倒くさいが、黙っていると「日本人は単一民族」とか言い出す人もいるし)。それがどうしてブラジル人あつかいされるのかというと、国籍取得が血統によるか出生地によるか、国によって異なるゆえ。日本は血統主義を採るので、どこで生まれても日本人なのだが、ブラジルは出生地主義のようで、ブラジルで生まれれば誰でも(両親が外国人でも)ブラジル人あつかいされるということなのだ(cf. Wikipedia:血統主義)。二重国籍などはこうして生まれるわけ(日本は重国籍を認めていない一方、ブラジルは国籍放棄を認めていないそうなので、もしルールを厳格に運用すると、この記者は日本国籍を放棄してブラジル人になるしかないのかな? さすがにそれは問題があるので黙認ということになるのだろう)。

それだけならまあ微笑ましい話を読んだなぁ、で一日を終えられたのだが、

【転載】【緊急】外国人排斥デモに反対する緊急行動のお知らせ - 訳者あとがきβ版
http://d.hatena.ne.jp/mujige/20090410/1239319864

こんなエントリを見かけてしまった。もし日本も出生地主義だったら――と思わずにはいられない。「日本のような経済大国でそれをやったら云々」などと言われるだろうが、たいがいの日本人だって結局「日本で生まれただけ」でしょ。出生地主義による国籍取得とほとんどなにも変わらないのではないかと思う*3

それにしても外国人排斥のシュプレヒコールをあげて「関わるのが面倒くさい」なんて思わせたらそれだけで勝ち、みたいな状況は問題だ(このデモに反対するデモも十把一からげに「関わりたくない対象」認定されそう)。とはいえ僕はヘイトスピーチの規制には(恣意的な運用を恐れるゆえ)賛同しかねるし……頭痛い。

前述の記事に呼応してid:gkmondがさっそく思いのたけを語ってるので、その件について僕からはもう何も言うことはないです。

cf. 自称愛国者が今日ヘイトスピーチをばらまく呼びかけをしていることに思う

*1:特派員メモ「◆サンパウロ 釈然としない罰金」朝日新聞2009年4月10日朝刊

*2:それと、投票が義務なので選挙登録していないと罰金というシステムは、日本でもやったらどうかと思わないでもないけど、罰金怖さに適当な投票をされてもなあ……と、それもひとまず置いておく。

*3:cf. 「日本人に生まれるという特権(という幻想)」(http://d.hatena.ne.jp/islecape/20090226/p1