そこにいるか

個人的な体験、その他の雑感

「もふもふウサギ」エントリの落ち穂拾い(暫定版)

※拾いこぼしがあるような気もするので、気付いたら随時追加します。


前回投稿したエントリ「もふもふしたウサギが主演する戦争アニメは、ただそれだけで非難に値する」(以下「もふもふ〜」)について、ほとぼりも冷めたようなのでいくつか*1。お忙しい方もおられるでしょうから、とりあえず結論を三つ箇条書きで。

  1. タイトルが内容に即したものではありませんでした。YouTubeコメント欄のCatShitOne派の意見にうなずけない件」とでもすればよかったかなと思います。
  2. 論じるにあたって、カテゴリーの異なる「成年向けゲーム」と「ストライクウィッチーズ」についてまとめてひっくるめて批判的に言及したのは軽率でした。これらは本来は別個に批判すべきものです。


あれ? 二つだった。

反響について

前回のエントリ「もふもふ〜」ではコメント、トラックバックソーシャルブックマークTwitterでの言及などで、およそ600を超えるレスポンスをいただきました。このダイアリー(ブログ)はページビュー(PV)を計測していませんが、「はてなダイアリー」の記事編集ページにはデフォルトでかなり充実したリファラ参照元URL表示)があり、それによれば件の記事は約10000程度のPVがあったものと思われます*2。これは、このダイアリーのトップ記事であった在韓日本人に関するコピペ文を調べたものと同じ、あるいは上回るレベルで、印象としては、「在韓日本人コピペ検証」と、この「もふもふ〜」の二つのエントリだけで本ダイアリーの全PVの半分を稼ぎだしているように思います(つまり、このダイアリーの影響力はその程度です。PV3万〜5万くらい)。

すでに指摘されているように、「もふもふ〜」は個人の感想の域を脱するものではなく、公の議論に供されるには不適切で、その点において今回の注目はまったく不幸としか言いようがありませんでした*3。しかしありがたいことに(そして当然のことでもありますが)この社会は「個人の思いつき」を述べることを禁止していません。僕が「思いつき」を軽々しく投稿したことにより不快の念を抱かれる方がそれなりにいたようで、その価値観の違いは残念に思いますし、「人のいやがることをするな」という倫理感に基づく感情が申し訳ない気分を抱かせもするのですが、その方にもまた僕に不快の念を表明する自由が保障されているのですから、まあそれ以上なにを望むことがあろうかという気分ではあります。

したがって僕が果たすべき義務は、ある種の偶然からふだんからは想像できないような反響を呼んだことについて、その結果責任を負う程度のものであると考えています(内容について謝罪や撤回をするわけではないので、開き直りと受け取られる向きもあるかもしれませんが、実際のところ「悪いことをした」という罪悪感はない、というのが正直なところです。「差別的」「蔑視的」ということに関しては後述します)。

タイトルの不適切さについて

さて、けっきょくあのエントリは、タイトル「もふもふしたウサギが主演する戦争アニメはただそれだけで非難に値する」という、なんとも居丈高な言いぐさからくる印象がすべてでした。なにしろふだんあまりタイトルには気を使っていません。このエントリに先んじて、それなりに力を入れ書いたエントリ「流言とデマとTwitter」は、考えを改めてホッテントリメーカーの提案をいろいろ参照しながらも、けっきょく無難なタイトルにして埋もれさせてしまっていますが、「もふもふ」のほうは、ぱっと決めてぱっと投稿しました。投稿してから「これは釣り題かな」とは思いましたが、そのままにしたのは特に深い意図があったわけでなく、その後の反響を読み違えたからにすぎません。

  1. 釣り題の意図はなかった
  2. しかし投稿後、釣り題になっていると薄々感じながらとくに善後策を講じなかった

ということです。誤字脱字、意味の通じない文ならともかく、いちど投稿したものはあまり修正したくないので(いやまあ意味通じてないといえば通じてないですけど)。

実際のところ「もふもふ〜」のタイトルはかなり長く、それでいて意を尽くせていない感があります。実際には「『もふもふしたウサギが主演する戦争アニメはただそれだけで非難に値する』と感じる人もいるであろうにそんなにはしゃぐなみっともない」とでもすれば、もう少しエントリの内容に即したタイトルになったかなあ、と思わなくもありません。

批判対象について

つまり改めて考えるに、前回のエントリがもっとも主張すべきだった点(僕が異議を申し立てたかった点)は「ゾーニングがないことへの批判」というより、「作品鑑賞に際しての受け手の態度」だったようにも思います。あえて厳しくみれば、「成年ゲームなどを煙幕に使った」のと同様、「ゾーニングがない」と言ったことすら建前だったかもしれません(自分が書いた文章なのになぜこのような曖昧な言い方をするか、疑念に思われる方もおられるかもしれませんが、自分の動機というものはけっこうわからないものです)。

いま「もふもふ〜」で問題視した発言を振り返ってみても、やはり「黙って楽しめ」というのは無責任な態度でしかないように思えます(「アラブを舞台にしているふうに見える作品に対する日本人の発言」という、政治的なふるまいとして受け取られる可能性のある行動ということを差し引いても)。政治的関心・無関心はこの際さておきましょう。むしろ鑑賞者が、制作者の「フォローしきれなかった点」を補完できないのであれば、それは鑑賞者の責任による作品の敗北になってしまうのではないでしょうか。例えば特撮作品の暴力性などを言う人がいますが、創作に関わる層、受け手の層、その両方の厚みが違います。作品内世界ですでに主人公が自己の暴力性を批判的に内観する視座を持ったり、鑑賞する受け手が多種多様な批評を披瀝しあうこともあるでしょう。「黙って楽しめ」は、この作品を理解できない側が発した問いかけに対する不誠実な応答であると同時に、比較的小規模なプロジェクトの作品を受け手が補完し、作品世界の豊穣を目指す意図の放棄にも思えます。


なお、関連して過去にこのようなエントリを書いています。
「興味と関心の彼我」
「『裾野』の広さがうらやましい」

批判対象について(その2)

「もふもふ〜」に関して、『Cat Shit One』の原作をあげて「原作はもっと深みがあり、的はずれ」であるというようなご意見がありました。これに関しては、例の不適切な題にも「戦争アニメ」と書いており、原作漫画に関して述べていないという点をご確認いただきたいと思います。また、「20分程度の尺でそこまでフォローできるか」と表現の制約について触れ、「作品の上映時間の制約による描写の単調さはやむを得ない」と擁護することについては、もちろん制作側の事情として理解できるのですが、「もふもふ〜」は「そこをもう少し工夫できないのか」という疑念の表明です。また、「戦争をテーマにした作品だから難癖をつけているのだろう」というご不審があるとすれば、それはまったくの誤解です。「そのテーマを選んでこの内容を作った」ということに対する不評は確かにあるでしょうが、それについては結局のところ、「もしそういうことを言われたくない作り手がいるとすれば、野菜の妖精がキッチンでほのぼの遊ぶCGアニメでも作っていればいいのでは……」というふうにしか言えません。

また、ペンギンを主人公にベトナム戦争を寓意したといわれる『ペンギンズ・メモリー』や、宮崎駿監督による動物擬人化戦争漫画『泥まみれの虎』などの作品をあげ、これらを批評しないことを批判する方もおられましたが、これに関しては(建前として)ゾーニングを論じている(つもりの)エントリに対する読み違えと思っています(また、僕はこれらの作品は鑑賞していないため、肯定的にも批判的にも言及することができません。逆に、Webでわりと制約なく鑑賞できる『ハッピーツリーフレンズ』の指摘に対しては、ゾーニングに関わる部分もあり、いちおう鑑賞したうえで言及しました)。これも「もふもふしたウサギが」というタイトルからくる印象の仕業でしょうか。ちなみに『泥まみれの虎』に関しては不思議と批判してほしい(?)人がけっこういるようです。宮崎監督は嫌われてるんでしょうかね。

ゾーニングに関して

表現の自由は自明のものではありません。現にいま、さまざまなジャンルで規制の枷をはめようという試みがありますが、こうした状況の中で求められるのは、ただ自分の趣味を「自明」で「絶対」のものであると言いつのることではなく、異なる意見を持つ人との衝突を対話によって回避しようと試みることでしょう。僕自身はゾーニング消極的賛成派です。いかに不謹慎で悪趣味な作品であろうと自由に発表できるべきではあるが、その作品が誰かを精神的を傷つける可能性を考慮すると、「配慮なし」であることは自由をかさにきた表現者の暴力ではないかと考えるゆえです。

しかし例えば、「かわいらしい動物が残酷な戦いを演じることが、ある人々にとっては大きな意味を持ち、それがこの表現の一つの価値であろう」という意見は(僕はそうした見方は持ち得ないので、僕にとって有効ではありませんが)正当なもののように思えます。作品は、万人に向けて作られるものではありませんから、そうした主張が『Cat Shit One -The Animated Series-』の愛好者から表明されれば、「なるほど、そうした鑑賞の仕方があるのだな」と、第三者が納得することもあろうというものです(あるいはそこではじめてゾーニングの是非が建設的に論じられることもあるのではないかと)。

当該エントリの「差別性」について

当初いただいたソーシャルブックマークコメントのなかでいくつか「この書き手の差別意識が――」といったようなものがあり、はじめのうちは「いったいこの人は何を言っているのだろう」と理解できなかったのですが、それから50時間ほど考え、ほかにいただいたコメントと考えあわせて一応の結論がでました。

サブカルチャーのうち、マンガ、アニメ、ゲームといったものを愛好するいわゆる「オタク」層のなかで、僕個人は「性道具主義的な女性性の消費」や「兵器に対する批判的視点に欠けたような受容」にどうしてもなじめないところがあり、「オタク仲間内」でよく浮きます。したがって、僕は自分こそが最少数派であろうという認識でした。「一般層>(超えられない壁)>オタク>僕」といった具合に。したがって僕自身が迫害されている*4と感じているため、ヒエラルキーで一個上の「多数派」に向けて遠慮会釈なしにこのエントリを書いた――というわけですが、しかし僕をよく知らない人からすると僕自身が「オタクを迫害する一般層」に見えたということではないかと思います。

実際のところ、この「もふもふ〜」は囂々たる非難は浴びていません。激しく反発する強い口調のコメントが目立っているだけで(そしてそれはよくある話で)、「一般層に受けのいい意見」と読みとることもできます。あるいは僕のオタク文化圏内ルサンチマンの発露が「もふもふ〜」となって表出し、「一般層」を味方につけて成年ゲームマニアやミリタリーマニアを攻撃しかねない内容になっていたかなという反省はあります*5

ただ、こうした成年向けゲームや『ストライクウィッチーズ』に対する言及については、究極的には僕自身の文章の個性です。公正に論じるに不適切とは認めますが、感想の吐露としては正直なもので、誰かにすり寄ろうとしたものではありません。「あまりに優等生的な意見」ということについても同様で、僕自身がポリティカルコレクトネスというものを相当に意識しているのは事実ですが、心にもない美辞麗句を並べ立て無理しているというわけではなく、批判を受けないよう立ち位置を計算しているということもありません。「『正論』を真面目くさって述べている」ため、これが誰かの心からの批評を阻害するのではないか(サバルタンの言葉を奪うもの――というほどではないでしょうが)というご意見に関しては、その批判を受け止め反省すべき面と、そう言われても対処のしようがない面の両方があると考えています。

僕はふだんはまったく省みられることのない市井のブロガーにすぎず、権威でもなければ、ましてや権力者でもありません。特定の趣味嗜好を持つ人に対する嫌悪感を表明したことで、逆にそうした人々から嫌悪感を抱かれることはもちろん当然ですし、認識の誤りを指摘されたり、批判を受けることもあるでしょう。それが自由な意見のやりとりというものだと思います。しかし、あることがらについて、ある種の感想を抱き、ここに書いて公表したについては、万人に保証された権利を行使しているだけですし、そのこと(投稿)自体についてなんらの遠慮もするつもりはないのです。

最後に

繰り返しになりますが、今回の『Cat Shit One』、成年向けゲーム、そして『ストライクウィッチーズ』に対する「違和感」の表明は、僕のまったく正直な感想です。ただ、これらをまとめてひっくるめて取り扱ったことはフェアなやりかたではなく、その各々について個々個別に批判すべきでした。

実際のところ、僕はすでに成年向けゲームと『ストライクウィッチーズ』については違和感を表明しています。これについては無名ブロガーの悲しさ。とくだんの賛同があったわけでも否定されたわけでもなく――つまり、今回こうしてついでに取り扱ったのは、「これも以前と同じように、とくだん顧みられることはないだろう」という気の緩みによるものです。

このダイアリーの目的はあくまで無名の一個人の思考を記録することにあり、その目的において、あのエントリは一貫した思考に基づく記述でした。多くの人の目に触れることでそれが「正論テロ」のように作用するについて無自覚であったことは確かですが、今回の身に余る注目もあくまで一時的なものであり、また閑散とした記録場になるにおいてどうすべきかについて考えるに、おそらく今後の方針もあまり変わらないのではないかと思ってはいます。難しいところです。

残念なことに、この種のイベントはけっきょく「くりかえしの議論」にすぎず、過去にも似たような議論があり、また、「もふもふ〜」の後も、地上波放映された『サマーウォーズ』でまたぞろひと悶着あったようです。しかし、こうした可視化されたWeb上のやりとりの中で、それが誰かの内省のきっかけになることがあれば、何百人を巻き込んで泥投げ合戦に興じたことにも報いがあるというものでしょう。

最後になりましたが、様々のご意見をいただいた皆様にお礼申し上げます。

*1:このエントリ自体は「もふもふ〜」を投稿してから三日目に書かれたものですが、コメント等のレスポンスをすべて確認してから投稿するつもりだったため、だいぶ間があきました(その間に加筆もしています)。

*2:PVカウンターをそのままにしている別ダイアリーでリファラの数値とPVを比較したら数字に7倍の開きがありました。もしかしたら50000は言い過ぎでも30000PVくらいあったのかもしれません。

*3:逆にこの不幸な注目を浴びた文の書き手が、わりと暇で、あるていど叩かれ慣れていたことはよかったのかなと思ってもいるのですが。

*4:というほどではもちろんないけれども

*5:もしこれに気づかなかった場合、あやうくニュースサイトの寄稿の誘いに乗ってしまっていたかも……