そこにいるか

個人的な体験、その他の雑感

僕の妹もそんなに可愛いほうじゃない

妹とはそういうものです。

聞くところによると、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』について、メディアワークスがアニメ化を機会に猛プッシュしているらしい。

個人的にはあまり興味がなかったので、視聴域局である東京MXでのTV放映はスルーした(というか気づきもしなかった)のだが、

18禁を未成年がプレイするシーンが登場する作品に、エロゲメーカーが協力することの是非
http://togetter.com/li/56307

このような批判を目にした。


状況説明はこちら。

「アニメ版『俺妹』にエロゲメーカー協力問題」の論点整理 - 平和の温故知新@はてな
http://d.hatena.ne.jp/kim-peace/20101004/p1

このダイアリーでは、ときおり成年ゲームと一部のユーザーをあげつらっている*1ので、ちょっとした義務感?もあってバンダイチャンネルで『俺の妹が〜』第一話を見た*2。なお、原作は未読である(『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』のあらすじはここ)。



感想:主人公である兄・京介の中の人が中の人だけに、いつ「今日の私は、阿修羅すら凌駕する存在だ!」とか「私は心奪われた。 この気持ち……まさしく愛だ!」とか言い出すかと思って期待していたのだが、アニメ第一話に関していえば、最初から最後まで一般人だったので肩透かしでした。そりゃそうか。



まあともかく、登場した成年向けゲームのどれが実在するゲームでどれが架空のタイトルかもよくわからないような人間にとっては「実在メーカーの協力」と言われても何のありがたみもないわけで。予備知識なしに見たとして、「なにがどう問題なのか」ということについて、まったく頭に兆さなかったのではないかと思う*3。ありていにいうと、エンドロールで実在のメーカーが「協力」としてクレジットされているといっても、言われなければ気づきもしないし、言われてもそれが何の会社かすらわからない。そういうのをいちいち調べるからオタ(以下略)。大方の人はそんなことにはお構いなしに「ふーん、女子中学生がどうやって成年向けゲームを買ったんかねえ」*4とかいった程度の、ごくありふれた感想しか浮かばないであろうと思う。というか、実際そんな感想しか浮かばなかった。「オープニングとエンディングに本編が食い込んでたけど、二回目以降はふつうにテーマ曲+アニメだろうな。来週どうしよう」とか。

それはそれとして、一方で冒頭あげたような批判が出てくる。そうした批判は、「メディアワークスはなにを考えているのか」「協力するゲームメーカーがうかつ」というような業界内の話としてはまあ正当なものではなかろうかと思うが、僕自身としては、このアニメを見て、取り立てて批判するほどのものでもないと感じたし、その不作為を咎め心の声もなかった。業界の中で風当たりを感じる人と無風の室内でテレビを見ている僕の意識の違いかもしれないが、こういうこともある。妹によれば、「中学生が18禁指定の同人誌を買って親バレし、サークルに親から文句が〜」)とかいう話はBL系同人界隈でも聞く話だそうで*5、自重論みたいなものが出てくるのかなあと。相似形なのかなあと。なんか完全に他人事みたいな感じだが、例えばこれが規制の口実になるというような懸念はあまり……。


で、本題

さて、「こんな女子中学生がいるか、オタクの自己投影だろ」というような見方をする人もたぶんいると思うのだが*6、重度のオタクであることをカミングアウトしたあとの妹・桐乃を見て思ったのは、「なんか(僕の)妹に似てるな」だった。

僕にも経験があるが、「妹キャラ」に対する愛を語る「妹」を見て「いや、君だって妹だろう」というようなことを考えるのは的外れである。彼女にとって、自分が周囲から(意に沿わぬ?)「妹」の役割を与えられているということは、その彼女自身の妹キャラへのいわゆる「萌え」などと呼ばれる感情を阻害する要件にはならない――もちろん桐乃自身が(本人が「妹」であろうとなかろうと)「妹」というキャラクター類型の差別性を認識しない「無自覚な消費者」であるという批判はありうるのだが――桐乃のキャラクターは(もちろんだいぶカリカチュアライズされてはいるが)、「ある趣味を持った妹」を持つ身からすると決して「まるっきり現実感がない」という感じではなかった*7


さらに言うと、「兄妹で妹キャラを攻略するエロゲーとか、ありえねえだろ」と考える人はきっといると思うのだが、僕と僕の妹は、かつて『ファーストKiss☆物語』(PC-FX版)という、名を口にするのもはばかられるゲームをプレイしながら「織倉一家はどう考えてもおかしい」「七瀬綾華『ちゃん』は勘弁してほしい*8」「蒼月ひよりとベジータのおでこ」などといったテーマについて意見を交わしてたりした(このゲームの「攻略対象」には、当時としては珍しい?中学生の「妹」系キャラが二人いる)*9 *10

で、この、タイトルを書くのも恥ずかしい『ファーストKiss☆物語』は「18歳以上推奨」ゲームであり*11、われわれ兄妹は当時まだ……というわけで、『俺の妹が〜』のああいうシチュエーションも、まあ、ないことはないんじゃないですかね、ということを証言しておきたいと思う。してどうする。


ところで、アニメ『俺の妹が〜』。ひとついいところがあるとすれば、食事のあと子供たちが自分の食器を流し場に置くところ(まあ、自分で洗っていればもっとよかったとは思う)。

Cosmic Baton Girl コメットさん☆』において、主人公のコメットさんが食器をそのままで「ごちそうさま」と出ていく振る舞いに違和感を覚えて以降、「子供」役割を持つキャラクターないし「父親」役割を持つキャラクターが「母親」役割を持つキャラクターと共に食事したあと食器を片付けるかどうか機会あるごとに観察していたのだが、他のアニメでもだいたいそんな感じで「新聞に投書してやろうか」とたいへん気になっていた。なので、これを見てちょっとほっとしている。あくまでも「ちょっと」だけど*12

問題は、あのいかにも家父長的な感じのお父さんのほうだな。



というわけで、桐乃に習ってオタクっぽさ全開でお送りしました。

オチはありません。

2010年10月18日追記:
僕は第一話を見てそれっきりにしているが、妹は三話まで見たそうで(http://d.hatena.ne.jp/kim-peace/20101017/p1 ←こちらによれば、第三話で原作単行本一巻ぶん消化とのこと)、


「『京介みたいな兄がほしい』と言ってる人が多いみたいだね」と話を振ったら、


「私も欲しい」と言われました。



追加のオチ:http://h.hatena.ne.jp/islecape/9234098657642923756


余談

アニメでは、原作にはあったという桐乃が利用する「はてなアンテナ」への言及が省かれる一方で個人ブログの「アキバBlog」(成年向け要素あり)と「かーずSP」はばっちり言及されたということで、はてな村民としては落涙するところ(正直いうと、「アキバBlog」も「かーずSP」も、『俺の妹が〜』で話題になるまで知らなかったし、RSS購読対象どころか、アクセスしたことすらなかったのだが)。

それにしてもアキバBlogの人は遠慮会釈なしに『俺の妹』の成年向け二次創作同人誌を紹介してたりするので、桐乃がいまごろ「うわなにこれキモっ! チョー引くんですけど!」とか言ってるんじゃないかと、いらぬ心配をしたりしなくもないですよ*13


(それとも、平然と「一次と二次は別」と言うだろうか?)

*1:成年ゲーム批判批判批判みたいな感じで。

*2:第一話は10月17日まで無料公開中

*3:ところでパッケージを積み上げていくシーンがあったのだが、実際に真似してみるとこのようになるらしい。

*4:「18禁ゲーム」じゃなくて「R-18ゲーム」であってどうたらこうたらと言っているとかいないとか。

*5:松文館裁判もこのパターンという。

*6:cf. 「オタクの葛藤をかわいく映す、映し鏡としての『らき☆すた』」 - シロクマの屑籠(汎適所属) http://d.hatena.ne.jp/p_shirokuma/20080915/p1

*7:ひるがえって僕自身は京介には似ていない。

*8:おかげで長いこと織倉香奈ルートに行けなかった

*9:ちなみに、あの作品のワーストセリフは阪口大助演じる笹木哲也の「織倉さんはお前にくれてやる!」で、「これはいかんなー」と兄妹でブーイングしていた。

*10:話はズレるが、このゲームの中学生ヒロインというのもどうかと思ったものだが、そのあと『スクライド』のヒロインが小学生?みたいな感じで、あのあたり以降、アニメやゲームでのヒロイン低年齢化についてタガが外れたような印象があるけれどもどうなんだろ。

*11:のちプレイステーションに移植された際は「全年齢版」になり、いくつかのシーンがカットされた。キャラクターデザイナーの水上広樹氏は、父親と「18禁ゲームに手を出しおってからに」「いや18禁じゃないよ、18歳以上推奨」というような会話をしたとかなんとか。

*12:もっとも、僕が見るアニメは年に10本もないし、しかもその中で家族と食事をともにするシーンのある現代を舞台にした作品となるとさらに数が限られてくるので、有効な調査とは言えない。「兄」の理想像的な『おじゃる丸』のカズマはどうだったっけ?

*13:『俺の妹』を見た未成年の読者がアキバBlogの存在を知ることによって、成年向け作品の情報に触れるようになる傾向が助長される、という批判はあるかもしれないが、そのことについてはさておく(個人的にははてなブックマークで幅広く成年向けエントリが新着欄に上がってくるほうがどうかと思っているし、Twitterでフォロワーの年齢を確認せず成年向けページに言及することだって問題になる。このへんは意見が固まっていない)。