よしながふみ中間点説 - そこにいるか

「大奥」よしながふみ - キワモノ偏愛記　増補版
http://kiwamono.blog.so-net.ne.jp/2009-05-09
「大奥」、追記 - キワモノ偏愛記　増補版
http://kiwamono.blog.so-net.ne.jp/2009-10-18

に関して、コメントにはちょっと長いのでトラックバックで。

僕自身、個人的に読んだよしながふみ作品には（BL作品は未読ですが）「エッジの鋭さが足りない」という印象を持っています。それはまったく大きなお世話なのでどうでもいいとして、そうした「物足りない」「違和感がある」というような意見が出てくる一方、少なくともこういった主題の取り方をする創作者とその作品がメインストリームで語られだしてきた、ということに、いくらか時代の変化のようなものを感じなくもありません。

志村貴子の『放浪息子』『青い花』なども、「マニア」層にとどまらずぽつぽつ話題になっているようで（こうした作品の消費のされかたに「興味本位」「イメージ先行」などいった側面がまったくないとは思いませんが）、多くの人が、かくのごとく多様な価値観を提示する作品を鑑賞する機会を持つようになるにつれ、社会の意識がいくらかでも変化していくのではないかと思っています。目立ちはじめることによる「軋轢」が今後あるかもしれませんけれども。

アメリカのSFドラマ『スタートレック』に出演したアフリカ系女優のニシェル・ニコルズが「こんなバカみたいなミニスカートの役、やめたい」と言ったのを、キング牧師が「いまあなたは、『黒人』が召し使いでも犯罪者でもない役をやっているのだから」と諭したとかいう話があるとか。けっきょく彼女は「ミニスカート」という女性性に対する問題意識をさておき、「黒人俳優」としての活動を続け、結果として少なからぬ人々に影響を与えることになったそうです*1（だから女性大統領より先にアフリカ系大統領が誕生したと見るのはトンデモすぎるでしょうね）。

以前このダイアリー（ブログ）で書いて未確認のままにしている情報ですが、日本は「女性漫画家が世界でいちばん多い国」だということです。しかしかつての少女漫画を読んでいると、男性編集者が口出ししたのではないかというような「女性観」を感じることは少なくありませんでした（まあ今でもありますがね。それが本当に男性編集者の口出しかはともかく、「男性優位的な社会状況」に考えなしに乗っかったとしか思えないようなシチュエーションとか）。そんな作品でも、当の女性（少女）は気にせず読んでいたわけで、それはある意味で「偏見の再生産」でしかありません。つまり、「女性漫画家が多い」というだけではだめなのです。

例えば、社会の変化で女性編集者が増え、女性作家と組むようになれば、当然ステロタイプな男性編集者と組むのとは違った作品ができるでしょう。また、時代が下るにつれ、ジェンダーロールに守旧的な考えを持たない若い編集者（男女いずれでも）が登場するということもあるはず。そして読み手もまた、そのように生み出された作品を、「違和感」なくごく当然のものとして鑑賞していく――ただ単に「女性漫画家が多い」ということだけでなく、「女性漫画家を取り巻く状況そのものも変化している」ということを考えるに、あるいは女性が女性として作家性を発揮できる土壌がようやくにして完成した、という面があるのだと思います。

そうした状況に励まされたよしながふみの継受者（フォロワー）が続々出現するようになれば、その中に、自分の好みに完全に合致する創作者もあるいは出てくるんじゃないかなーと。

関連してなくもなさそうなエントリ：
興味と関心の彼我 http://d.hatena.ne.jp/islecape/20090820/p1
『プラネテス』の政治性が物足りない、という意見について「まあ別にいいんじゃない？（投げやり）」という意見を述べつつ、「政治を漫画に持ち込むな！」と怒る人々をなだめようと試みたもの。

ぜんっぜん関係ないエントリ：
islecapeのはてなハイク http://h.hatena.ne.jp/islecape/9259264918046148546
スヌーピーについてちょっと詳しく言ったらオタク扱いだよ！　ということに驚きあきれておる。でもまあスヌーピーのデザインが好きであろうと、スヌーピーの物語が好きであろうと、「スヌーピー好き」ということでは一緒だと思うのですよ。『プラネテス』ではいくぶん吹き上がりましたけど、よしながふみ作品の消費のされかたもまあいろいろだろうということで。

ちなみに僕はスヌーピー（ピーナッツ）についてはそこそこ知識がありますが、ディズニーについては無知です。ミッキーの飼い犬ってプルートだっけ？　それともグーフィー？