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『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』ないものねだり感想〜「裏切者」の末路から

5月29日、マイケル・ベイ監督、スティーブン・スピルバーグ製作総指揮の映画『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン(THE TRANSFORMERS: DARK OF THE MOON)』を、ショッピングモール併設シネマコンプレックスIMAXデジタルシアターで鑑賞した(3D映画の鑑賞は初めて)。鑑賞料金は前売り券1300円に加え、3D上映の特別料金を900円余計に払って2200円だった。

観客は作品のターゲット層である若い男性が多く、大学生かなにかと思しきグループも見られた。ほかはカップルが4、5組、子供連れはさらに少なく2組。平日午前中の回で、完全満席ではなかったように思うが、本番が土日と考えればまずまずの入りだろう。もともと大ヒットが約束されたハリウッド大作で、すでに世界中で興収記録を打ち立てているそうなので、他国と比べトランスフォーマー人気が低い(と言われる)日本とはいえ興業的に失敗することもないと思われる。

上映時間は比較的長い157分。冒頭、シャイア・ラブーフ演じる主人公が就職氷河期世代として困難に直面するコメディ要素の強いパートは一部で若干冗長な感じもあったが、全体的にみると、ほとんどは宇宙の彼方からやってきた金属生命体トランスフォーマー*1が撃ち合い殴り合い、その巻き添えとかで人間がばんばん死ぬ(血は出てなかったが、わりと直接的な描写はあった)、あっという間の展開だった。あっという間すぎて、例によってストーリーが飛ばしとばしであった。いつものことである。

映像表現については、僕が初の3D映画鑑賞ということで他作品と比較することができないのだが、特にトランスフォーマー側の未知のテクノロジーを望遠するシーンなどは(確かに立体的に見えるのだが)それでかえって「ミニチュア」感が強まり、いささか臨場感に欠ける画になっていたように感じた。これは遊園地のアトラクション体験のような感じなのではないだろうか(人によっては3D上映でないほうが脳内補正がかかって迫力を感じる、かも)。

僕が鑑賞前にレギュラーキャストの中で注目していたのは、「世界で最も美しい男50人の中のひとり」というなんだかよくわからない称号を与えられたこともあるモデルのジョシュ・デュアメル演じるアメリカ軍の部隊長レノックスだ。


(世界で最も美しい男50人のひとり、のイメージ*2

どんなピンチでもかすり傷しか負わない特殊能力を誇り、1作目では脅える民間人の高校生に「君はもう兵士だ」などと抜かし、2作目では(口やかましい役立たずの)大統領補佐官を現場から排除するなど、文民統制の「ぶ」の字も気にかけない振る舞いを見せるトンデモ軍人として描かれており、さあ3作目はいったいどんな地雷を用意してくるのであろうかと心待ち心配していたのだけれど、ピンチに次ぐピンチでゆとりがなかったのか、わりとふつうに自分の仕事をしていた。

というか、そもそも監督からして(米軍に)信頼と実績のマイケル・ベイなのだが、今回に限ってはアメリカ軍が組織的に活躍する場面はそれほど目立たない。やはり「敵」が強すぎることが問題なのだろう。プロモーションは映画第一作から「人間とロボットの壮絶な戦い」をアピールしようとしていたフシがあったような気もする。しかし実態は「他所からやってきたロボット同士の戦いに人間がちょっと巻き込まれただけで右往左往」で、主人公にできることといえば「オプティマアアアーーース!」と、味方側のロボットの名前を呼んで応援するのがせいぜい。地球を狙った身の程知らずのロボットを人類がさんざんに打ち負かす、といったカタルシスは得られない。それでトランスフォーマーを知らない層の「スピルバーグ的な侵略パニック映画かと思ったのに」的な不興を買ったりする。もっとも、ハリウッド版ゴジラが作られたときや、ガメラ平成三部作が作られたとき、「人間の兵器が通じなさすぎる」と、怪獣たちのスペックが引き下げられたというような話もあるそうで*3、おそらくトランスフォーマーも(人間の兵器の水準にあわせて)かなり弱体化させられているのだろう。実際にガンダムモビルスーツ)が存在しても兵器としては役に立たないと言われる。その対モビルスーツ戦術と同じような方法で、トランスフォーマーもあっけなく人間にやられたりしていた。ありていにいうと「目つぶし」と「関節攻撃」ですが。

しかしまあ、あってないようなストーリーとはいえ、アメリカの月探査計画が絡むこともあり、ケネディニクソン(のそっくり俳優*4)が出てきたり、アポロ11号の宇宙飛行士バズ・オルドリン本人も出演*5したり、声の出演をしているレナード・ニモイの代表作『スタートレック』のミスター・スポックの映像が出てきたりと、小ネタは満載で、そういう楽しみ方はできた。そのうち元ネタ解説サイトができるであろうと思われる*6。あとほかに、主人公に勲章を渡すバラク・オバマ(らしきアフリカ系大統領みたいな人*7)や、ビル・オライリー(たぶん本人*8)まで出てくる始末だった。二度三度見ても全部ネタを発見できるかどうか不明だが、正直二回見るほどかなあ、とか思ってはいる。前売り券は二枚あるので、妹に譲ろうかとも……。Blu-rayはどうせ買うし。

そんな感じ。

またラジー賞の栄冠に輝きそうな気がする。




さて、前置きがすごーく長くなったが、ここからが本題(映画評としては余禄)。ややネタバレを含む。

エンドタイトルの後、日本版の声の出演まで確認(そもそも英語がよほど堪能でない限り、1回目は字幕で見ないほうがいいと思う。3Dって)、借り受けた3Dメガネを返却して、首をかしげながらシアターを後にした。

今作のキーワードは「裏切り」ということで、人間側とトランスフォーマー側に、それぞれ「裏切り者」とみなされるキャラクターが登場するのだが、劇中で人間の裏切者キャラクターが「しがらみがあるんだ」というようなことを主人公に言う。「生まれる前から決まっていたことだ」と。

それを聞いて、「おやっ」と思った。

トランスフォーマーは、「戦うため生まれた*9」「ある朝目覚めた時に、戦う相手を決められていた*10」といった世界観を持っていて、そもそも玩具が原作のコマーシャルアニメの運命としても、おもちゃ会社が存続するかぎり永遠に二つ以上の勢力に分かれて戦わされ続ける運命にある*11。そのセリフを聞いて、僕自身はメタ視点に引き上げられた。

「裏切者」キャラクターは、自身の「裏切り行為」による代価を積極的に得ていたふうで、(他にも人間側の裏切者はいるのだが、どうにか人間社会への裏切りを贖おうとしてことごとく敵方のトランスフォーマーに殺されてしまう他のキャラクターと違い)最後まで敵方(ディセプティコン)の意に沿ったふるまいを続け、シナリオ上その「報い」を受けることになる。

しかし、その「報い」は「当然」なのだろうか? この映画では、トランスフォーマーが家電製品や、あるいは人間そのものに擬態して人間社会に入り込んでいるという設定になっている*12。そういう世界において、

「しがらみがあるんだ」*13

このセリフはとても優れていると思う。これがこのキャラクターの告解でさえあるように思う。*14

確かにそのキャラクターは「清廉潔白・無私無欲」ではない。普通の人間である。つまり、我々と同じに。物心ついたときから、誰も気づかれないところから銃を突きつけられて「スパイ行為をしろ」と言われたとしたら、いったい誰が抵抗できるだろうか。それで普通に安泰に暮らせるのである(そもそもそれはその人にとっての運命というか、当然の日常である。もちろん敵方勢力は人類に不利な環境の構築を志向しており、合理的に考えると協力することで自分の首を絞める行為といえるけれども)。実際のところ、主人公でさえ人質を取られて意に沿わぬ行為をする展開もあるくらいだというのに。

人間は、自分の生まれた環境に思考を規定される。なすべきとても重要なことに、気づいてさえない可能性もあるし、すべきではないことを、それとわからず続けてしまうこともある。生まれたとき、他者を裏切るか、さもなくば死ぬべき運命の二択しかないその「裏切者」キャラクターに比べれば、主人公は非常に幸運であった。もともと彼は祖父から受け継いだ遺品を敵の勢力に狙われていたのだが、その勢力と敵対し、かつ人間に好意的な「友人」にただちに護衛してもらえるようになったのであるから。

結局、その「裏切者」キャラクターの人間性がそれ以上追及されることはなく、あとはただ享楽的で浅薄な人間として、終盤に破滅して退場する(映画では生死不明。ノベライズでは文字通り肉体が消滅する)。その運命は、「生まれたときから決められていた」のだろう。

マイケル・ベイは(映画第一作のオーディオコメンタリーによれば)若いころCMなども作っていたそうで、そういった経験からか、ほんの一瞬画面に映る小物にも気を使っている感じはある。映像では主人公たちが覚悟を決めて行動を開始するシーンの画面の端にちらっと星条旗のストライプスが翻ったりするなど、ところどころにアメリカ的な正義をさりげなくアピールするような映像作りがあり、映像表現としてはまあ微笑ましいものだ。しかし「裏切り者の結末」の脚本はいかにも倫理的で、神の子をわずかな銀貨と引き換えにした密告者を許さない、というような意志を感じた。

現実の人類は、ほかの知的生命を知らない。もし、ほかに知性ある種族がいたとして、そのとき人類でなく、彼らの世界に与することがあるとしたら、それは「裏切り」なのだろうか。何をもって「裏切り」といえるのか。「善」と「悪」が極度に図式化されたこの映画では、人類側への裏切りは、まあ「罪」といってもいいだろう。しかしおそらく、現実のジレンマはもちろんこんなふうに白黒つけられたりはしない。やむを得ずどちらかを選べば、選ばなかったほうから裏切者扱いされるというのがだいたいのところだろう。裏切り者の詳しい「事情」がわからない以上は、判断は留保するしかないだろうなと思うのである。いや、もしかしたら、そもそもこれはマイケル・ベイによって作られた反ディセプティコンプロパガンダなのかも……

……娯楽映画で高等批評もどきっぽいことをしてもせんないことなのでこのくらいにしておくが、映画版のトランスフォーマーシリーズは、子供向けというよりはティーン向けなので、もうちょっと脚本がこの「裏切者」の末路を考慮してやってもよかったのではないか、と、僕の好みでは思う。トランスフォーマー側の「裏切り」も、「自分の故郷」と「取るに足らない小さな炭素生物の世界」を天秤にかけた結果を考えれば、わからないでもない。そもそも、人類に味方するほうのトランスフォーマーがそこまで人類に肩入れするほどの動機といえば「すべての知的生命は自由である」というモットーをかたくなに守っているゆえのことで、そっちのほうがちょっとおかしい。

なんでもかんでも「大人の鑑賞に堪えるようになればいい」というわけではないが、「トランスフォーマー」は住むべき世界を失った英雄的な神々が別の世界を訪れるという一種の神話物語であり、多元並行世界を舞台にさまざまの種族同士がコミュニケーションをかわすSFでもある、とか思っているので(もちろんアメコミ源流のスーパーヒーローとスーパーヴィランの物語でもある)。

ともあれ、マイケル・ベイ監督作品のトランスフォーマーはこうして三部作の幕を下した。ベイ三部作はやや大味なハリウッド超大作ではあったが、トランスフォーマー世界にとっていくつかの注目すべき萌芽の片鱗くらいは見られた(と、僕が偉そうに言うのもなんですが。もちろん関係者にはもっといいフィードバックがあったろう)。原作玩具を開発するタカラトミーの経営にも寄与したであろう*15

なので、1960年代の西海岸的な空気のなか、ビルの壁を走ったり愉快な怪人たちと牧歌的な戦いを繰り広げていたバットマン*16が、20年後、リアルな世界観を志向するティム・バートン版を経て、さらにその20年後に『ダークナイト』として、罪と悪のありかたについて表現するようになったように*17、いつかトランスフォーマーの映画が、その多面的な構造にふさわしい主題――たとえば知性と自由のありかた、生命と真理の探究を表現するようなこともあるのかもしれないと、そういう希望を持って映画の次回シリーズを待とうと思う。


つまり、40年後くらいに?*18

*1:本当なら、機械惑星サイバートロンの出身ということで「サイバートロン星人」とか「サイバトロニアン」と呼ぶところだが、ここでは通称として「トランスフォーマー」で統一する

*2:cf.トランスフォーマームービー RA-32 オートボットジャズ&レノックス少佐

*3:「災厄」が人間の力で抑え込めるようになっては本末転倒だと思うのだが。

*4:そっくりというほどでもないが……

*5:さすがにニール・アームストロングは出ない。

*6:ちなみに、オーソン・ウェルズの遺作となったのが1985年公開の劇場アニメ『トランスフォーマー・ザ・ムービー』で、「星間帝王ユニクロン」(惑星に擬態)を演じた、というトリビアがあるが、その劇場版で瀕死の重傷を負った敵側の指導者メガトロンが、ユニクロンによって魔改造されたガルバトロンを演じたのも、レナード・ニモイだった。ニモイは近年俳優業を引退していたそうだが、妻のいとこが監督する『ダークサイド・ムーン』のセンチネル・プライム役で復帰ということで、ちょっと話題にもなった。また、原語版ではオリジナルのメガトロンを演じた声優フランク・ウェルカーも(あまり見せ場のないショックウェーブサウンドウェーブ役で)出演しているらしい。

*7:劇中シカゴが壊滅するので頭抱えてるだろうなあ……

*8:保守系メディアFOXニュースの司会者。名前はよく聞くが、実際に番組を見たことはない。日本ではたぶん放映されてないし。

*9:戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー』エンディングテーマ

*10:戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー2010』エンディングテーマ

*11:さすがにその運命に疑問を感じるキャラクターもいたのだが、それに気づくことが死亡フラグになってたりする。作品劇中が映画『マトリックス』の中みたいなものである。

*12:「人間の科学技術の進歩は、実はトランスフォーマーたちのテクノロジーを下敷きにしていたからだ」という描き方もされていて、そのあたりはSFとして若干好みに合わないのだが、それはさておき。

*13:じつのところ、正確にこのセリフだったかはちょっと思い出せないが。

*14:そのあとの展開がなければ……

*15:これでしばらくはトランスフォーマーブランドも安定する……といいんだけど。

*16:ここで言及しているのは、『怪鳥人バットマン』というドラマシリーズの映画化らしい。1944年版の映像作品は未見。

*17:僕自身は、実はそれほどとも思ってないのだが。

*18:ティム・バートン版を勘定に入れるなら20年後?