そこにいるか

個人的な体験、その他の雑感

ニューヨークよ、おまえもか

東京ローカルのテレビ局・東京メトロポリタンテレビジョンMXTV)のニュースで、米ニューヨークの24時間ニュースチャンネル"NY1(ニューヨーク・ワン)"の報道を字幕つきで流すコーナーがある。話によれば提携局らしい*1

それによると、ニューヨーク市の公共バスで、経営合理化に伴うサービス低下*2などに怒った乗客が運転手につばを吐きかける事件が多発しているとか。

それだけでもびっくり仰天ニュースのような気がするのだが*3、それよりニュースの主眼が別のところにあったので別の意味で驚いた。

「私も吐かれている」……えっ

報道によると、ニューヨーク市交通局には、職務中暴行を受けることによって有給休暇を取得できる制度があるという。2008年に運賃をめぐるトラブルで運転手が乗客に刺殺されたことがきっかけということで、つば吐きも「暴行」として扱われる。2009年には83人のドライバーが乗客から唾を吐かれ、そのうち51人が平均64日の有給休暇を取得したそうな。

で、それに対する街の声が、

  • 「唾を吐かれることなんて、他の仕事でもある」
  • 「私も唾を吐かれることはあるけど、休んでも1日」
  • 「許されない侮辱だけど、2ヶ月は長すぎだろう」

えーと、ニューヨークの労働現場では唾を吐かれるのがデフォルトということでしょうか? いやだな、ニューヨーク*4。僕なら三年くらい休みたいです。

というか、この構図はどこかで見たような……

「唾を吐かれて長期休暇」はそんなに不当かな?

これがこの局の報道姿勢ということかもしれないが、「街の声」は、とにかくバス運転手の「厚遇」に疑問の声を投げかけるものばかり(報道では「2ヶ月の有給!」という論調だが、取得期間の最長は191日間だそうで、もしかしたら少数が桁外れの有給を得て平均値をいくらか押し上げているのかもしれない*5)。

まあそりゃ2ヶ月も有給休暇で休まれたら他の職員へのしわ寄せとかもあるだろう。しかしとにかく交通局の経営陣と労働組合の交渉がかみ合っていないということが話題の中心で、「客が唾を吐く」という行為についてはまるで関心を寄せられていないかのようだった。

問題は「根本的解決」への視点が欠けている(ように見える)ことでは……

ニューヨーク市では、6月にさらに数十の路線が削減されることになっており、通勤客のストレスが増す状況でトラブルがますます増える可能性があるとも言われている。経営陣がここで問題視すべきなのは、「運転手が唾を吐かれたくらいで休む」ということより、「運転手が客に唾を吐かれる現状」ではないだろうか。

なにしろストライキでは給料も出ないというし(組合の積み立て費で工面するとか)、これも職場環境改善への抗議のひとつの方法と捉えてもいいのではないのだろうかと僕などは思うのだが、そこを「2ヶ月有給」とセンセーショナルに言いたてるのは見当はずれの煙幕という気がした。でも「街の声」を見るかぎり、それがけっこう有効に作用しているように見えてしまうわけで。いいのかそれで。


とまあ、アメリカにも「低いほうにあわせろ」的な意見はありました、というお話でした。




どこでもそうなんだろうねえ。


参考記事(英語 ともにリンク切れ)
NYC bus drivers spat upon take paid days off - timesunion.com
When Passengers Spit, Bus Drivers Take Months Off - NYTimes.com



※後日追記:

緊急脱出用シュート発動の乗務員スレイターさんが仮釈放、国民的ヒーローに : ギズモード・ジャパン http://www.gizmodo.jp/2010/08/post_7468.html

三ヶ月後にこんなことも起きたり。人生いろいろである。

*1:アナウンサーが毎回「東京MXの姉妹局」などと、ちょっと誇らしそうに言っている。

*2:合理化「で」サービスが下がるというのがそもそも変な話だが。

*3:日本でもこういうニュースがあったばかりだけど→「車掌が女性気にくわない」つば吐いた男逮捕 警視庁 - MSN産経ニュース

*4:ロンドンなどでは「吐かれた唾のDNAを収集している」という記事もあったので、他の都市もそうなのかも。

*5:40人が20日の有給、10人が200日の有給とかだとそれくらいになるし。