そこにいるか

個人的な体験、その他の雑感

「私は感心した」僕は心配です

2009年11月8日付の朝日新聞投書欄に、「社会を冷静に観察する中学生」という投稿があった。中学校の教員によるもので、中学三年生の国語のテストに「鳩山政権の政策をひとつ取り上げ、自分の考えを200文字以内の文章にまとめる」という課題を出したそうだ。

以下、引用:

 意外にも、「子ども手当はなくしてほしい」が36人で1位だった。理由は「親は何に使ってしまうかわからない」が最多で、「その場しのぎに過ぎない」「保育所を増やすなど支援を目に見える形にしないと、安心して子供を産めない」と続く。子ども手当の対象者が書いたと思うと、苦笑いしてしまう。
 2番目に多かったのは「公立高校無償化に反対」の24人。理由は「中学を卒業したらすぐ働きたい人や職人に弟子入りしたい人がいるかも」「誰もが高校に行きたがるという考えを前提にしているのがおかしい」などシビアだ。
 私は感心した。子どもたちは親や社会を冷静に見ている。

僕は心配です。これどこの2ちゃんねるですか。


確かに、子ども手当だけで育児が助かるとも思えないし、「保育所を増やすなど支援を目に見える形に〜」というのは同意できる。しかし、子ども手当を「親は何に使ってしまうかわからない」と切り捨てるのは、Webの吹きだまりみたいなところでよく見る情緒的な意見だ。それは「自分の親」のことを言っているのではあるまい(「ある種の親」が、子供のことなど考えずにお金をパチンコに使ってしまい、そしてそれがパチンコ店を経営する在日外国人を潤すことになり――つまりこれこそ民主党売国政策だと)。生活保護に対しても似たような意見があるが、ごく少数による制度からの逸脱を根拠に全否定を行うロジックが見てとれる。ある種の潔癖主義と好意的に見るべきだろうか?


そして一方で、「公立高校無償化に反対」をいう意見もすごい。彼らは中学三年生である。受験までもう三ヶ月、四ヶ月もないなか出てきた意見が、

「中学を卒業したらすぐ働きたい人や職人に弟子入りしたい人がいるかも」

「誰もが高校に行きたがるという考えを前提にしているのがおかしい」

とは。


じゃあ君ら中学を出たらすぐ働くんか。


どうにも受験生の意見とは思えない。もしかして中高一貫校で実感がないのだろうか? あるいは、高校に進学しない3%がまとまってそこにいるのか? 社会が高校進学を(ほぼ)当然視し、高校進学率は全国平均97%という現在である。高校無償化は義務教育化に準じるひとつの施策としてそれほど外したものでもないと僕などは思うのだが。

そもそも「中学を卒業したらすぐ働きたい人や職人に弟子入りしたい人」の存在を、高校無償化と関連付けて考える必要は全くないはずである。それは高校に進学しない人が取るに足らない少数派だからではない。

高校が無償化されたからといって、高校に進学しない人はなんらの迷惑をも被らないからである。

「税金で高校進学費用分を負担させられるじゃないか」というのは、なし。子ども手当についても言えることだが、国民は何かしら、利用したことのないサービスを間接的に負担している。病気知らずだから健康保険に入らないでよいということはないのだ(特権的とはいえない程度の「優遇」をことさら排撃するのは、社会にとってかえってコストがかかる。応能負担がきっちり守られているかのチェックを重視したほうがよい)。


というわけで、投書を読むかぎり「政策に反対」というより、現政権に対するWeb上の偏見を鵜呑みにして、それをそのまま学校の授業でも表出しているだけでは、という懸念しか感じられなかった。つまり、Webに垂れ流されているしょうもない意見が子どもに悪影響を及ぼしているということのひとつの具体例として、深刻に受け取るべき問題なのではないかと(あるいはもしかして、その手のWeb上の書き込みって中学生のものなんじゃないかなあ、とも思うけど)。

しかし投書した先生はこう書いて締めくくっている。

「いい大学」を出れば「いい仕事」に就けるとも思っていない。学歴偏重への批判ともとれる。閉塞感あふれる世の中で、人生には実はもっと様々な選択肢があるはずだ、と言いたいのかもしれない。

なんというか、先生の認識も心配です。


僕の性格がねじ曲がっているだけかのう……。