要は勇気があってもダメなものはダメ
「で、私のどこが好きなの」
そう言われて絶句した。ど、ど、ど、どこが好きなの……かな……?
僕は突然の思いつきでとんでもないことをいろいろやる。そういうわけでその日、僕は突然の思いつきによって中学のころのクラスメートに告白に行ったのであった。寒風ふきすさぶ師走。呼び出した彼女に「付き合って」の一言を何とか絞り出したら即座に返ってきたのがその言葉だった。
「……」
けっきょく僕がしたことは、女の子の前でバカみたいに沈黙することだけだった。まあ仮にうまい切り返しができたからといって、彼女が交際してくれることはなかったとは思うが。
僕は悟った。勇気だけではだめなのだ。フラグも立っていない女の子になんで玉砕したのだろう。ランプは手入れしなくてはならないのだ。
「――そういうわけでさあ。フラれちゃったんだよ、こういうのフラれるっていうのかわかんないけど」
「あ、そう」
僕は自分の失敗をよく話のネタにする。井上ひさしが伝染ったらしい。そういうわけで翌日、僕は友人に電話して前日の痛い失敗を話していたのであった。
「冷たいなあ。もうちょっと慰めてくれたっていいじゃん」
「もうその話はいいよ」
「いやまあ聞いてよ。ちょっとどうかしていたとは思うんだけど、若気の至りって言うか――」
「聞きたくないって言ってるでしょ! なんであたしにそんな話すんのよ! 自分が何してるかわかってんの!?」
ガチャン、ツーツー。
泣き声だった。
……え?
「ちょっと話があるんだけど」
「いま?」
「うん」
それから数年後。クラス会というほどではない友人の集まり。冒頭の彼女と再会して僕がしたことは、話がある、と彼女を外に連れだすことだった。他の連中は酔っ払ってるし(未成年だったけど!)。
「前はごめん、どうもしつこくしてしまって」
「ストーカーかと思った」
「……ごめん」
なにしろ中学の同級生。生活範囲が近いので顔をあわせる機会も多く、そのたびに声をかけていたらすっかりうるさがられてしまったのである。さすがに僕のほうが気まずくなって、しばらくはコソコソ隠れていた。
それにしても――
「……二人が仲良かったなんて、知らなかったよ」
「中学出てからだもんねー」
「ねー」
冒頭の彼女は僕を警戒したのか、連れをひとり伴ってきていたのである。二人は恋人がいちゃいちゃするように体を寄せあって、僕のしどろもどろな弁解を聞いていた。
「連れ」が僕を意地悪そうに見やった。もう僕のために泣いてくれそうな感じはなかった。
何の罰ゲームだ。