対抗心
後ろに人の気配がした。不審なことはなにもない。僕は家に帰るところで、夕方の通りをふつうに歩いているだけだ。
それにしても、じわじわと距離を詰められている気がする。
僕を追い抜くほどの足の早さなら、背の高い男性だろうか……。
違った。
若い女性だ。
僕より少し背が高い。177cmくらいだろうか、女性にしてはかなり高いほうだろう。ブルージーンズに白いスニーカー。テンポ120*1で、姿勢よく僕を追い抜いていった。
そしていつものように、対抗意識が湧いた。
信号待ちで立ち止まっている彼女の後方5メートルにつけ、タイミングを見計らって一歩目を踏み出す。こうすれば、青信号になってから歩き出すより早くなる。
歩幅を広げ、テンポ90から140へ。そのまま振り向きもせず、まっすぐに進む。もう誰も僕を追い抜いたりしない。
(一方的な)勝利だ。
それから30分後――
夕食の買い物を済ませ、ヘロヘロ。
意地をはりすぎた……。
*1:一分間に120拍