そこにいるか

個人的な体験、その他の雑感

サービスに依存しすぎることのリスク

ウェブサービスは提供者が支配している - ’(rubikitch wanna be (a . lisper))

http://d.hatena.ne.jp/rubikitch/20081130/1227972619

を読んでおおむね同感。こういうものには過度に依存せず、自分に用立てられるところだけつまみ食いして、万が一そうでなくなったなら「今までありがとう」で済ませられるようにするのがいいと思う。そもそもみんなブログサービスだってデータをエクスポートできるタイプを選ぶでしょう?*1

ウェブサービスを使う場合は仕様変更が起きるかもしれないことを念頭に置くべきだ。それが嫌だったら、ウェブサービスを使わずにローカルでやればいいだけの話。ローカルだったら自分が支配していることになるし、使うソフトウェアがフリーソフトウェアだったら勝手に改良できる。

ということについて考えてみた。

フリーソフトウェアを改良というのは、そもそも僕がそんなスキルを持ち合わせていないのでなんとも言えないが、ウェブサービスよりローカルでやれよ、というのは別の見地からもうなずける。つまり、「ブックマークページを公開する趣味はないし」という見識について。

もっとも、僕はそういう趣味があるのでブックマークページを公開している。それで某はてな取締役に理解不明だ」とか言われたりもしたれど元気。それはさておき、いくら僕がお調子者だからといって、何でもかんでもウェブ上に公開してはいない。「現時点における僕の浅慮」という程度のリミッターでしかないけれど、何を公開して、何を公開しないかということは重要だと思っている*2。公開されたソーシャルブックマークは一種のセルフプロデュースにすぎないのだと。

話がずれた。

元エントリは「自分で環境を切り開く派の人」のものなので、僕には物足りないところで話が終わってしまった。僕みたいなものからすれば、「困惑させられるサービスの仕様変更」というのはなにもウェブサービスに限ったことではないと思う。

というわけで、(前置きが長くなったが)勝手に話を引き継がせていただく。

数年前、Macintoshの国で象徴的な出来事があった。Macintosh登場時のOS"System"の流れを汲むMacOS9からUNIXベースのモダンOS"MacOSX"に移行することになったとき、Appleはエミュレーション機能(クラシック)を用意して、OS9以前にリリースされた古いソフトもあるていど使えるよう取り計らっていた*3。ところが、そのOS移行騒動も冷めやらぬうち、AppleMacintoshに採用するCPUをPowerPCからintel CPUに変更(PPC向けのソフトがintelで動くことは決してない)。その際、旧資産に対する救済策は行われなかった。つまり、OS9以前に投資した数十万のソフト資産には、今やもうほとんど何の価値もないということである*4

話が前後するが、Painterの「水彩」ツールの描き味が変わったと大騒ぎになったことがあった。それで古いバージョンを使い続けている人も大勢いる。しかしそれも時間の問題だ。ある人が旧MacintoshPainterを使っているとする。使っている旧Macがついに壊れた。さあ、どうなる? 最新機種(intel Mac)では、もう古いPainterを使えない。最近のバージョンでは「水彩」ツールもかなり改良されているそうだ。じゃあ新しく買えばそれで万事めでたしめでたし……なのかというと、さて、それで済む問題だろうか。なにしろ劇的に違う。金銭的問題を片づけたとしても、その人は古いPainterに特化した自分の技能に引きずられて新しいPainterに腹を立て始めるかもしれない。人間にはドライバソフトというものがないから。

リスクはなにもITだけにあるわけじゃない。Painterの「水彩」だけが劣化するわけじゃない。本物の画材だって、時として質が落ちる。値上がりする。バリエーションが減る。生産中止になる。個人というのは本当に微力だ。実際のところ、我々にできることというのは周囲の環境に振り回されることだけではないのか*5

「弘法は必ず筆を選ぶ」などと言う人はいるが、そんなこと言われるまでもない。「弘法は筆の良しあしを選ばない」というのともちょっと違う。むしろ、「弘法は筆を選べないような状況でも、おのれが弘法たることを証しだてられる」ということを主眼としたい。「親指シフトじゃないとだめだー」などと高価なキーボードを買う人についてとやかく言うつもりはないが、変質していくサービスに合わせられる柔軟さを獲得するのも大事だと思う。自分が何に依存しているのか、そして、その依存にどれほどのリスクがあるのか、そしていざというときに果して乗り切れるか、そういうことを考えることも重要ではないか。

僕は780円で買ったWindows用のUSBキーボードでも不足なくMacintoshを使えます*6

*1:僕はうっかりgooブログも借りてますけど……

*2:要するに、「エロ注意」みたいな記事はブラウザのブックマークで十分だということですよ。週刊誌のヌードグラビアを電車のなかで読んでいるようにしか思えないというか。

*3:実はSystemの時代にも68KからPPCに移行したことがある。この時もOSレベルでエミュレーション機能があった。いずれのケースでも、OSやCPUに依存する一部のソフトは結局動かなかった。

*4:そういえば、iMacが登場したときも、AppleSCSIその他のポートを「レガシーデバイス」と斬って捨てたことがある。Appleの先取性に付き合うということは、ある意味ではそういうことであろう。そういう面で、僕はMacintoshを初心者には勧めない。その人がよほど暇なお金持ちでもない限り。

*5:郵政民営化で困った人もいるだろうし、ショッピングモールが撤退して不便になった人だっているだろう。その種の外的要因はいくらでもある。

*6:そしてさらに、安価なWindowsノートでこのエントリを書いてもいる。