そこにいるか

個人的な体験、その他の雑感

匿名で始まるコミュニケーションはあるかもしれない

この文章を読んでいる人はあまり興味がないかもしれないが、pixivというイラスト投稿サイトがある。自分で描いたイラストを投稿すると、コメントがついたりブックマークされたりメッセージがくる(ないことのほうが多い)。mixiなどを意識したと思しき造りで、サイト内における友人を指す言葉が「マイピク」。そのまんまだ。テキスト機能は貧弱で、HTMLタグなど使えない。「投稿イラスト」と「公開ブックマーク」を中心にユーザーが交流をするサイトなのである。


pixivについて現段階での詳細はこの記事をどうぞ。

「得体の知れないものになった」――「pixiv」急成長、社名も「ピクシブ」に - ITmedia News

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0810/27/news023.html

赤字なんだ……。


10月24日、pixiv事務局(運営)はサイトのメンテナンスを行い、以下のような発表をした。

本日、以下の機能を実装しました。

・タグ匿名禁止機能
本日のメンテンス終了以降にタグを追加した場合、イラストの投稿者にはどのユーザーがタグを追加したかがわかるようになりました。復帰の場合は復帰をしたユーザーとなります。(投稿者がタグを復帰させた場合は、最後にそのタグを追加したユーザーになります。)

pixivでは、投稿したイラストに最大10個のタグをつけることができる。

投稿者が10個の枠すべて使うこともできるが、これを2個だけにしておけば、残り8個分は閲覧者が自由なキーワードをつけられる。

ご承知の通り、タグによる分類は、ちょっとした語句の違いによって無効になってしまう。アルファベットの大文字と小文字の違いを許容する程度。例えば、きょう現在でpixivに投稿されたイラストに「ウィザードリィ」タグがつけられたものは91件、“Wizardry”タグがつけられたものは47件ある。投稿者が“Wizardry”タグだけのイラストを投稿した場合に、閲覧者が「ウィザードリィ」タグをつけてやるというような余計なお世話もできるわけだ(ちなみに“Wizardly”タグのついたイラストも1件あるが、ギャグなのか本気なのかわからないのでそのままにしている。日本人の英語を英語国民が揶揄するときは“Engrish”というらしい)。

その一方で、タグをコメント代わりにする行為もあった。ユーザー登録しなければ活動できないサイトなので、コメントやメッセージは必ず登録IDとともに送られていたが、タグの登録ではそれがなかった。pixivにおけるタグいじりは匿名で送ることができる唯一のメッセージ手段だったわけである。

そしてそれが終わった。おそらく、タグいじりによる嫌がらせがあったろうし、運営に対し、ちょっと批判的なことを書かれただけの投稿者からクレームが寄せられたというようなこともありうる。イラスト描きなんてナーバスな人間ばっかりだから仕方ないかもしれない(10/27追記:別の見方があったので文末にリンクを示す)。僕に関して言えば、タグをいじるよりもコメントやメッセージを送る主義なので、今回の仕様変更はとくだん痛手ではない。

ただ、これは萎縮効果があるだろうな、とは思う。このサイトで悪意を発露する方法が、「低評価スパム」のみになってしまうのだ(ひとつのIDにつき一日一回、十段階評価ができる。ただ普通は低くてもせいぜい「7」で、だいたい「10」しかつかない)。

何百、何千と評価してもらえるようなアルファイラストレーター(うまい言い回しが思いつかないが)ならともかく、せいぜい2、3回しか評価をもらえないようなマイナー投稿者が、10日連続で評価「1」を受けたりすればそりゃへこむだろう(それとも、いずれは評価者のIDも公開されるようになるのだろうか?)。

というか、そもそも点数をつけるだけという行為はコミュニケーションとは言いがたい。たとえ悪意の込められたタグいじりでも、それが自然言語ならば反論できようが(そもそも投稿者には編集されたタグを削除する権限があり、また閲覧者のタグ編集を許可しない設定にすることもできる)。

もっとうまい落としどころはなかったのだろうか。

そういえば、(インターネットに真の匿名性はないとも言われているが)政治はもっとネットを透明化したいとか思っているとか。女優が自殺した韓国が一歩先を行こうとしているそうで。でもそれで悪意が消えるかどうかはやはり疑わしいし、そもそも透明化すべきなのは政治のほうだよね。


■追記:タイムリーな話題があったので付け加える


関連して読んだ記事

はてなブックマークという暴力増幅装置。 - 真性引き篭もり

http://sinseihikikomori.sblo.jp/article/21844733.html

つい先日アルファブロガーに遊ばれたばっかりなので、個人的に考えるところはある。

はてなブックマーカーが求めるのは、軽蔑機会であり、罵倒機会であり、吐き捨て機会であり、暴力機会であり、嘲笑機会であり、見下し機会である。
そして、何よりも、正義機会である。
直訳すれば、ジャスティスチャンスである。


ジャスティスチャンス」という言葉は面白いと思った。しかしながら、およそWeb上で活動するなら、表明した自分の意見には最後まで責任を持つ心構えを持つのが理想だろう。見下されたら見上げてやればいい。人間は下から見上げるよりも上目遣いのほうが見目が良くなる。関係ないけど。

表現する側もそれを揶揄する側も過剰な反応をしている面はある。槍玉に挙げてあげつらうのは論外だが、「勘違いを指摘するの禁止、無断引用禁止、無断リンク禁止」なんてのが支配的意見になったらどうしようか。これほど(リテラシーのない)人たちが大挙してネットにアクセスする社会にあっては、「いちどブログに記事を書いたら、それが誰かに無断でリンクされたとしても当然なんだよ」というような、Webのお約束も覆されかねない。


さらに、関連して読んだ記事

まじ難しい問題かな - finalventの日記

http://d.hatena.ne.jp/finalvent/20081026/1224982129

ちょっと検討ハズレなことをいうと、ブ米は、個人ノートやちょっとしたメッセンジャーという以上に意見表明として使うのはよしたほうがいいと思うけどね。つまり、潜在的な言論暴力の装置性への加担は控え目に、と。(なので、私は、基本的にブ米はしない。)


これもひとつの見識だろう。pixivにおける僕のブックマークもそうなのだが、結局ソーシャルブックマークは、「自分の興味の対象を公開する(=自分をひけらかす)」ことに主眼がある。その行為自体がすでに意見表明になってしまっているわけだ。コメントをつけることのみならず、ブックマークすること自体も十分に吟味する必要があるだろう。だいたいはブラウザのブックマークでも十分かな、とも思う(実際そうしている)。

ところで、ここで問題になっている「ぷにっと囲碁!なブログ」というブログは読めなかったし(Googleのキャッシュにはあるようだが)、もちろんはてブもしていない。たぶんその機会があっても読まなかったろう。しかし僕も前者の言うところの暴徒になる可能性はあるわけだ。気をつけよう。


ちなみに、本ダイアリーのコメント欄は承認制ですが、アダルトサイトや情報商材サイトを排除したいだけなので、記事に関連することであればいかなるコメントもオープンにいたします。


10/27追記:pixivタグに関して考察しているエントリー

タグの仕様変更で右往左往するpixiv - kigurumi-htの日記

http://d.hatena.ne.jp/kigurumi-ht/20081007/1223394664

ありゃ。この記事を読むと僕の記事はまるであさっての方向を向いているみたい。それにしても匿名コメントの試みなんて、あったかな。ぜんぜん気づかなかった。