そこにいるか

個人的な体験、その他の雑感

ニルダの杖はホームグロウンテロを防がない


※(いつものこととはいえ)文章があまりまとまらないので、もう寝ようと思って記事を下書き保存するつもりで、間違えて投稿してしまった。その記事自体は即座に削除したので問題ないかなと思っていたら、もうじき終了するGoogleリーダーに早速拾われてしまっていたので(このダイアリーは全文公開設定になっており、RSSリーダー上では内容全部読める状態である)、オチを考えてなかったものの結局公開することに…。あとイラストも描こうと思っていたが、けっきょく写真でごまかしている。


ボストンマラソンで起きた事件に関連して「ホームグロウンテロ」という用語がよく使われるようになった。

日本でも、様々な差別や抑圧に対する反応としてのテロが絶対に起こらないという可能性はないし、そもそもすでに連合赤軍オウム真理教のように「ホームグロウン」的な集団による事件は起きている――


以下、この数日そんなニュースを見ながら考えていた、昔のゲームの話。


「現下の社会状況に対し、非常に示唆に富んでいる」とか、別にそういうことを主張しようというようなものではなく、論理のことはおいといてゆるふわリラックス加減で書くのだが、


WizardryというコンピューターRPGがある。個人的には今でもときおりワンダースワン版のシナリオ1「狂王の試練場」を引っ張りだして遊んでいるくらい好きなゲームで、Wizardryロマンシング サ・ガのために予備機としてワンダースワンカラーを5個、スワンクリスタルを2個くらい買ってしまいこんでいる。

最初に遊んだのは小学生の頃、スーパーファミコン版のシナリオ5「災禍の中心」だった。もともとアメリカのゲームのため、ゲーム中の言語を日本語と英語に切り替えることが可能で、これを英語にしてプレイし「ドラクエやFFなどで遊ぶのなんて、お子様お子様」とかいって背伸びしたがりだったのが僕。そのため英語で出されたなぞなぞに回答できずクリアできなかったりしたのだが(クリアしたのは高校生になってからだった)、それはまあいいとして……




Wizardryのシリーズの中でも、とくに記憶に残っているのが、シナリオ2「ダイヤモンドの騎士」と、その重要アイテム「ニルダの杖(Staff of Gnilda)」である*1

歴史上で最高レベルの鍛造技術を駆使して作られたニルダの杖。
守護神ニルダの寺院に安置されたこの杖の力は、リルガミンの町を脅かす意志を持つものは何人も町に近づけず、悪意のないものだけを町に受け入れていった。
しかし、完璧な防御を誇る杖の力にも、たった1つ致命的な弱点があった。
リルガミンで生まれたものに対して、まったく無力だったのだ。それゆえに、悪の力を持ってリルガミンに生まれた魔人ダバルプスの陰謀は止められなかった……。
闇の助力を受けたダバルプスは、リルガミンの王位を奪い、王家を滅ぼした。
だが、幸いな事に若きマルグダ王女とアラビク王子の弟妹は、ダバルプスの襲撃から逃れて生きながらえていた。
2人はダバルプスを倒すため、偉大なる英雄「ダイヤモンドの騎士」の伝説に名高い5つの武器を取り戻した。神秘的な装束に身を固めたアラビクは、リルガミン城へ攻め上がり、壮烈な戦いの末、ダバルプスを倒すことに成功した。しかし、ダバルプスは死ぬ間際、強力な呪いの言葉を発した。その勢いはすさまじく、戦場となった城を崩し、後には、煙たなびく穴だけが残った。
ダバルプスとアラビク、そしてニルダの杖は消え失せた。だが、杖が戻らなければリルガミンの町は滅びてしまう。
かくして杖を取り戻すべく、冒険者たちが再び集められることとなった。

ウィザードリィ シナリオII ダイヤモンドの騎士」(1982年)ストーリー*2

ダイヤモンドの騎士の武器・防具は、ハースニール(剣)に「クリティカルヒット能力(敵即死)」と「ロルト*3無制限使用」のボーナスがあり、コッズ・ヘルム*4に「HP回復+1」「マダルト*5無制限使用」、コッズ・シールドに「HP回復+1」「ディアルマ*6無制限使用(戦闘中のみ)」、コッズ・ガントレットに「HP回復+1」「ティルトウェイト無制限使用*7」、コッズ・アーマーに「HP回復+1」「マツ*8無制限使用」。さらに、コッズ防具をすべて装備するとAC(回避率)は合計で−30にもなる(数値が低いほどよい)。この状態では敵の攻撃はほとんど当たらず、多少ダメージを受けても毎ターンHPは回復するし、こちらからは、敵集団に対してガントレットのティルトウェイトで一掃、生き残りはハースニールで一閃、首を刎ねて終わり、というWizardryシリーズ中でもかなり高性能のアイテム類である。


ゲームでは、迷宮と化した城跡で(なぜか)襲いかかってくるこれら武器防具を戦って倒し*9、一式として揃え、ニルダの祭壇に赴き捧げ、失われた杖をふたたび賜ることが目的となっていた(どうでもいいが、最後の最後で謎かけをしてくるのもスフィンクスだ cf. http://d.hatena.ne.jp/islecape/20090720/p1 )。

戦闘用アイテムとしては「ニルダの杖単体よりダイヤモンドの騎士の装備一式のほうがよほど役に立つ」というのが、なんとも興味深い。殺戮の目的に適したダイヤモンドの騎士の装備を一切捨てて、攻撃力補正がなく、戦闘でとくに役に立たないニルダの杖を手に入れなければならないのである。


これを持って帰ったところで、ふたたびリルガミンに悪意を持った者が生まれれば、また同じことになってしまう……(はじめからダイヤモンドの騎士の装備を確保しておいて、いざ事が起きれば内憂も外患も叩き潰す、というようなことは考えていないらしい。おそらくそれでいいのだろう)



少し話は飛んで現実に戻るが、オウム真理教の事件もまだ風化したというほどではない西暦2000年ごろ(ちょうど「世紀末」と喧ししかったころ)、10代後半の少年事件がたてつづけに発生し、動機を見出すことができぬあまり、周辺世代ひっくるめて世間から「理由なき犯罪世代」といったような認識を受けていた(僕もこれらの世代とはわりに近い)。彼らの「本当の動機」はもちろん知る由もないが、「逸脱行為というのは社会に対する何らかの異議申立てである」というふうに捉えることはできるので、「理由がない」というのではなく「"理由"を理路立てて自ら認識し、他者に伝え、それを解決するというようなことができなかったために、語りうる言葉を持たないままこうなってしまったのだろうなあ」というようなことを(勝手に)考えていたものだ。彼らの行為も、この平和な社会が意図せず育んだ異議申立者による攻撃性を帯びたメッセージであるのだと。


そういうわけで、「ダイヤモンドの騎士」のエピソードが、オウム真理教の事件と、頻発した少年事件あたりをひっくるめて印象に残り、にわかに注目された「ホームグロウンテロ」という用語によって思い起こされたのであった。

日本は、リルガミンがニルダの杖に守護されたがごとくな国であったし、今もまだわりとそういうところがある、ということで。


ではいったいどうすればよいのだろうか。


「内側で悪意を持ったものが生み出されないように気をつける」ということしかない。それはもちろん、「悪意を抱きそうなものをさっさと摘み取る」ということではない。

なにかしらの不満を持つ人はどこにでもいる。生まれうる。そのような不満を持つ人が、その不満が解消されないことを絶望して逃避的に暴力での解決に走ることに思いをいたさなくてはならない。どんな施策にも不満を持つ人はいて、すべての人の要望を叶えることはできない。なるべくすべての人に配慮して、不満と不公平を解消し、絶望で自棄に陥るような人に手を差し伸べるようにするしかない。そしてそれを社会が存続し続けるかぎり延々繰り返すのである。


また、「ニルダの杖」の問題は、「他者の排除」にもある(ところでゲームに登場する魔法のアイテムの設定に文句をつけても詮ないことだが「脅かす意志を持って近づくものを拒む」というのはいかにも無理がある。「内心の悪意」などというものを一体この杖はどうやって判断するのか。どれくらいなら「悪意」なのか。リルガミン王政を打倒しようとしてやって来る革命家も排除しそうだ)。いつかニルダの杖も捨てて、内なるものも外からくるものも受け入れ、なおかつ彼らに矛先を向けられずに済む社会というものは、はたして可能なのだろうか?



つまるところ、社会というのは綱渡りということであろう。あちらを立てて、様子を見つつこちらを立てて……

終わりのない永遠の綱渡りである。






ということは、不老不死というのはもんのすごく神経をすり減らすんではなかろうか?(「終わりのない人」に「終わりのなさ」に絶望されたりすると困るなあ)。


なんてことを、ここ数日考えておりました。

(もともと「ニルダの杖」の話を書こうとしていたわけではなかった。記事最後に書いた「永遠の綱渡りである」と、「不老不死というのはもんのすごく神経をすり減らすんではなかろうか?」に加え、「特異点による永遠の生命を期待する人の話」と、ウィンストン・チャーチルの最期の言葉「もう飽き飽きした」とかいうあたりをつまんで話は続くのじゃよ)(でもここまで書くと、なんかもう「"社会というものを存続させてゆくのは大変なんだね"みたいなことを書くのだろう」という予想が容易についてしまうのじゃよ……)





日本でWizardryといえば末弥純
もともと美大志望で彼のような絵を描きたくて油彩をやろうとしたものの、
油が乾くのを待つ最低限の堪え性もなかった気の短いislecapeの図


ちなみにシナリオ3「リルガミンの遺産」では、「各地で天変地異が起こるようになって世界が終末の危機」というような話になっていた。ニルダの杖の恩恵も自然現象には無力だったのだろう。シナリオ3ではちょっと話題になっただけでほとんど顧みられることもなかったのじゃよ。




関連しないこともないようなこともないような記事:

SP野望篇を見て「革命家になるのはやめて詩人でいよう」と思った
http://d.hatena.ne.jp/islecape/20101110/p1

社会というものを存続させてゆくのは大変なのじゃよ。

*1:プレイステーション版をクリアした。ゲーム自体は特殊なシステムの関係で大味だった。

*2:文面はローカスの「Wizardry LLYLGAMYN SAGA 公式ガイドブック」1998年3月31日第1刷から。明らかな誤記を一箇所修正してある。

*3:無数の真空の刃で敵1グループに6〜36のダメージ。

*4:「コッズ(KOD'S)」は、"Knight Of Diamond's"の略。

*5:氷の嵐で敵1グループに8〜64のダメージ。

*6:味方一人のHPを3〜24回復。

*7:「核撃」。魔術師系最強の呪文、敵全体に10〜100のダメージ。

*8:味方全体のAC(回避率)を2補正する。

*9:手懐け?