野生動物に「新天地」がない
本来は九州にいないオキナワキノボリトカゲが、宮崎県日南市と鹿児島県指宿市で見られるようになり、日本爬虫両生類学会(会長・松井正文 京都大教授)は、駆除などの対策を求める要望書を環境省と両県に送った。沖縄や奄美諸島が生息域で、環境省のレッドリストで絶滅危惧2類に指定されているが、天敵がいない南九州では在来生態系に悪影響を及ぼすおそれがあるという。
「絶滅危惧種 本土じゃ厄介者」朝日新聞社会面*1 *2太田教授*3は「木材や観葉植物に紛れて入り込み、暖流で暖かい日南市の海岸沿いや、温泉のわく指宿市で冬を越せたのではないか」と話し「今後温暖化が進めば、全国的な問題になる」と懸念した。
「絶滅危惧種のオキナワキノボリトカゲ 九州で繁殖、悪影響も」 - 琉球新報Web版*4これじゃまるで「沖縄にとどまるのなら大事にするが、そこから出ることはまかりならん」と、暗に言われているような気が……。
このトカゲが沖縄で競合種との生存競争に破れたのか、人間の活動に圧迫されたのかは不明だが、新天地となる九州で天敵の現われぬうちに勢力を拡大させる見込みはあった*5。そしてそこから新たな環境に適応し、あるいは亜種、新種になることがあったかもしれない。しかし人間がそれを許さない。
外来種が在来種を駆逐することを、人間は「取り返しのつかない事態」という。駆逐された種にとっては確かにそうだろうが、歴史上基本的に「取り返しのつかない事態」が何度も繰り返されるなか、その都度、新しいバイオームが再構築されてきた。「人間の活動によって生物多様性が損なわれてしまう」という懸念は、文明がもたらしたエゴの結果として内省すべきだろうが、一方でそこには「今の環境=人間が豊かに暮らせる世界を保持したい」という、人間の「別のエゴ」も見え隠れするような気がする。
cf.
絶滅危惧のオキナワキノボリトカゲ、宮崎県日南市で大量発生 - 裏日本ニュース
http://blog.livedoor.jp/tknmst/archives/51595370.htmlにある南日本新聞からの引用によれば、二年前からの話題だったらしい。
在九州オキナワキノボリトカゲに関する学会決議:
南九州で発見されたオキナワキノボリトカゲ外来個体群の対策に関する要望書 - 日本爬虫両棲類学会
http://zoo.zool.kyoto-u.ac.jp/herp/seimei/japalura.html*1:東京版2009年11月30日14版より一部省略して引用
*2:cf. http://www.asahi.com/science/update/1129/TKY200911290245.html
*3:引用者注:兵庫県立大学太田英利教授(生物地理学)朝日新聞によれば要望書の起案者
*4:http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-153147-storytopic-1.html
*5:そうなればなったでこのトカゲを捕食することに活路を見いだす種が登場し、長いスパンで見れば安定することになるのだろうが。