なぞなぞ認証顛末記
「おまえが生きるか、えさになるかは」ドラゴンは言った。「おれさま次第だ。それが旅人に出くわしたドラゴンのやりかたなんだ。われわれの流儀にしたがって、おまえに自由を獲得するチャンスをやろう。謎に答えなくてはならない」
「人間の性質……および同様の生物すべてに共通する基本的特性とは何か?」ドラゴンはジョン・トムのみるからに困惑した表情を見て、さも楽しそうに煙を吐いた。
(『スペルシンガー』*1)
とうとうこの零細ダイアリーにも、出会い系サイトかなにかへのリンク目当てと思しきコメントが来た。それが明け方のことで、今朝のメールチェックをさぼったため半日は晒されたことになる。
始めて一週間でスパムつきまくりの某やほおブログのことを思えば、長い平穏の日々であった。しかしWebをすなるものの定めがスパムメールとすれば、スパムコメントやスパムトラックバックはブロガーの定め*2。涙を吹いて立ち向かわねばならぬ。泣いてないけど。
あとはなにかネット民の気分を害することを書いてコメントスクラムを体験すれば、もはやブロガーとして恐れるものはなにもないというところまできて、コメンターの気勢を削ぐようなことをするのは気が引けるのだが(こういうことを書くからいかんのか)、自分のダイアリーに直接的な性表現が存在するというのはやはりどうにも耐えがたい。そういうわけで、コメント欄を承認制にするよりはと「なぞなぞ認証」を始めることにした。
なぞなぞ認証とは、はてな独自のサービスで「任意の質問とその答えを登録しておき、正しい答えを入力した人だけに閲覧を許可する機能」(はてなキーワードより引用)のことである。「閲覧を許可する機能」というあたりいまいち意味不明だが、要するになぞなぞに答えられないかぎり、コメントを登録することができないというものだ。
手始めに、ごく簡単ななぞなぞにしようと思った。
「朝は四本足、昼は二本足、夕は三本足の生き物なーんだ?」
いや待て。
いくらなんでもこれはあまりにも有名で簡単すぎる*3。
伝承によると、このなぞなぞは有名な人喰い神獣スフィンクス会心の作で、彼女?が食材を獲得するさいに倫理的葛藤を軽減するためのもの(想像)だったが、通りすがりのオイディプスにあっさり答えられてしまった。そのエピソードは三千年ちかくヨーロッパ地方を中心に延々と語り継がれてきた。もはや文明人で答えを知らぬものはないほど有名ななぞなぞである。「そもそもなぞなぞとか言ってないで有無をいわさずかぶりつけばよかったのに」とか、そういう心ないことを言ってはならぬ。
それはともかく、これではスパムコメンターでも簡単に回答できてしまうではないか。いったいどれくらいの難度にすればよいだろうか。問題を提示して、あっさり答えられて、ならばとより難しい問題を考えて……なんてやっているうちに、問題難度がどんどんインフレしていったら傍目には面白いかもしれないけどやるほうは大変だぞ。
自分の趣味を前面に押し出すと、
「日本語エスペラント辞典第二版、コンボイ, 774-2-13, 741-1-14。ポーロックメソッドで六文字」
なんてことになる。全国に10人くらいはエスペラント学習者でトランスフォーマー好きのシャーロッキアンがいるかもしれないが、こうなると「答えられるものなら答えてみろ」の世界になってしまうではないか。本末転倒だ。
そもそもスパマーだからといってなぞなぞに回答する能力がないなどと考えるのも、それはそれでよくないかもしれない。そのように人の知性を侮ることこそ批判されるのではないのか。では、相手の人間性に訴えかけるような、次のような文章を表示するのはどうであろう。
「神の子は『汝の隣人を愛せよ』と語られました。あなたがこのダイアリーにリンクを貼るということはすなわち我々は隣人となること。あなたとわたしとはいわば兄弟。さあ、唱えましょう、神を讃える言葉を全角カタカナ四文字で!」
……。
これだと普通にコメントする人が引くな。
というかなぞなぞじゃないし。
問いかけに答えることは困難を伴うものだが、問いかけることそれ自体もまた非常に困難なのだということに今さらながら気づくのであった。そしてどんななぞなぞにしようかと頭を悩ませるうち無駄に日が暮れていくのであった。なにをしているのか。
あわせて読ませたい:
スフィンクスがクイズマニアの人喰い怪獣というのは地中海文明の幼稚な空想にすぎない
http://d.hatena.ne.jp/islecape/20090720/p1
*1:スペルシンガー (ハヤカワ文庫FT―スペルシンガー・サーガ)、アラン・ディーン・フォスター著、宇佐川晶子訳、ハヤカワ文庫FT一九九五年七月十五日二刷366頁,367頁
*2:スパムスパムいうと「スパム」の缶詰会社がどうにも気の毒だが。
*3:ここでいう「簡単」とは、「多くの泥棒は侵入するのに五分かかる防犯体制だと諦めるらしいから、侵入に七分かかるくらいにしておこう」的なニュアンス。変な例え?